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扉あちこち／江島桂子 |
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物故者の多き名簿や菊日和
また母の辺に生まれたし赤まんま
密室の扉あちこち芒群
雪だるまぶざまに目覚めゐたりけり
冬耕の野深くあれ深くあれ
投げあげてぽんかん午後の屈託に
きのふへと寒夕焼をかへすなり
あはよくば生きよと産まれ二月かな
ものの芽や空にあさぎの淡水湖
らびっと糞と父の呼びたる雛の菓子
さう言へばふるさと鹿野（かの）や野火の頃
椿咲き咲ききることは泣くこと |
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寒の富士／川久保珪子 |
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柿もぎや顔光らせて待つ子供
つるべおとしベビーカー押し小走りに
被災地のラジオ体操冬の庭
還暦を過ぎて一年冬うらら
冬の暮立ち話する犬の群れ
あは雪やほどろほどろと土に消え
松納め山と積まるる仮置場
やはらかき陽差の内に梅ふふむ
バス待ちて首をすくめる寒の雨
ほつこりと陽だまりはあり梅開く
澄みわたる空に凛凛寒の富士
立春の影ふみながら登園す |
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眠る男／平田一夫 |
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日溜まりや蔦黄葉匍ふ異人墓
公孫樹散る舗道に眠る男あり
鶏頭の舗道に垂れてなお赤し
秋茜港の空の広さかな
割れ石榴実ごとの夕日赤かりし
丹沢も富士も切り絵ぞ秋の暮
谷の空残し満ちくる宵の闇
空の闇山に溶けたり蚯蚓鳴く
うつすらと刈田の匂ふ闇夜かな
しろじろと関東平野の初あかり
初詣昼の焚き火の白き熾
山眠る喪主の車の動きけり |
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転がる秋 そして冬／水谷佳奈 |
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銀杏の気配ぽとぽと渋谷の朝
本抱え翁ゆっくり秋の中
金曜日帰りし地元の星冴ゆる
マフラーとオリオンの下家路ゆく
白菜の台所一の存在感
氷張るカーブに「危険」生み出して
白い街装いにポインセチア映え
手袋を外して電話に近づいて
庭園にＸのツリー燦然と
落ち込んで冬樹の緑高く遠く
オリオンの角度に教わる冬時間
ぽわんとす柚子風呂で締めくくる今日 |
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日脚伸ぶ／吉野裕之 |
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流星や祖父の書物を大切に
元町の入り口に立つ秋の人
野分後の山のかたちの美しく
いつまでも動いてゐたり秋扇
父の庭月のしづくの中にあり
銀座・月光荘画材店
三人や扉を開けたままの秋
ほがらかにことばを使ふ落葉かな
波郷忌の近づく町に戻りけり
画学生からのメールやシクラメン
片方が残されてゐる師走かな
ほんほんと雪ほんほんと母のこゑ
瑞泉寺の
住職の顔大きくて日脚伸ぶ |
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