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日の盛り／浦崎真子 |
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公園の裸婦のブロンズ春きざす
春寒や毘沙門天の口堅し
桜ごち盃持てる道祖神
仔羊の跳ねる高原六月に
ラムネ玉空より落としラッパ飲み
魚跳ねて夏の入江を動かしぬ
朝の戸や今ふくふくと巴旦杏
幾千の水輪流せる梅雨の川
垣根より届く朝の胡瓜かな
ひんやりと酒蔵にある日の盛り
うしろより音迫り来て夕立かな
残鶯や山遠ければこの町に
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六月の種と虫／江島桂子 |
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渾名のみの旧師の顔や告天子
転居先不明を伝へ暮春かな
大楠や渡り廊下を司る
真芯に刃を当てほどくキャベツかな
桐のはな母その母のことを言ふ
夜は舟となる初夏の風の梢
閉校の分教場や車前草
山の子の平道と言ふ坂薄暑
せせらぐはみなづきの川鼓膜の奥
とほくとほく喝采の音つゆ出水
六月の髙みにさらす莢のもの
凹凹を抜け六月の種と虫
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沙羅の花／片倉睦子 |
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「わぁすげえ」のぞきこむ子等蝌蚪の陣
髪飾り新しくして夏立ちぬ
窓拭く手青山椒に止められて
夏木立黄色帽子のはずむ声
茹卵つるんと剥けて五月尽
花びらの二片開きて梔子は
半衿のはや絽となりぬ車中人
木に在るも落つるも総て沙羅の花
今年また家族で形代納めけり
デイゴ咲き海を見つめるペリー像
垣越しに話す間も落ち凌霄花
楚々とゆれ撓ってゆれて額の花
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交差点／川久保珪子 |
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ものの芽やタミフルにある副作用
ゆく春や荷物の多き月曜日
ゆくバスも旗なびかせて昭和の日
新緑や歩車分離式交差点
母の皺ひとつひとつに薄暑かな
青饅や四者連続本塁打
母に見るわが行先や雪解富士
夏至けふの割り込む尻の大きこと
昼間でも鍵かける家心太
国中が世界遺産や木葉木菟
蜘蛛の囲の雨粒のせて対峙せり
七夕に新車届きし家族かな
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沢の蟹／北野貞雄 |
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花吹雪介護ホームの車行く
銭湯の桶音響く花の昼
春の風あけ放たれし養豚舎
早苗田やかくも小さき鎮守杜
熟れ落ちてなお苦かりし桜の実
つついても動じぬ虫や花海芋
永らえてただ寝る犬や梅雨ふかし
茜雲縁の朽ちたる額の花
炎天に蚯蚓這い出て果てにけり
山峡の赤き鉄橋夏深し
岩水に屍さらす沢の蟹
あの雲もまだ入道にはなりきれず
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長梅雨／佐久間章 |
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啓蟄や蠢くゴマ粒のごとき蟲
泳がばやと水中眼鏡の妻の顔
湯河原の露天の湯気や夏来る
湖に赤き鳥居の薄暮かな
西日さすリビングの窓拭き終る
五月雨や路傍に捨てし仏花
梅雨晴れや海の香のこる開き鯵
薔薇活けし水絨緞にこぼしけり
長き梅雨今日沖縄は明けにけり
立ち止まり七夕竹を見上げる児
梅雨冷えやよべ降りぬらし凍る粒
短夜や早暁エンジンふかす音
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夏帽子／田中千波 |
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待つ人のおわす古里夏きざす
帯解くや手のゆらゆらと花づかれ
ついーっと乗る少年の声風青葉
片かげり研師の首の深き皺
七才の遠慮もすこしさくらんぼ
きりきりと冷えたり父の日のワイン
きわだちて唇の紅夏帽子
背びれ尾びれたっぷりと塩鮎焼けり
伸びる蔓ゴーヤすだれでありにけり
ホィと蕾落ちて水盤あふれけり
会釈などして大人びて浴衣の子
真四角にあぐらをきめて白絣
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すずらん／田中益美 |
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春風や風車の回る丘の上
すずらんの香りほのかに捧げたり
空家あり白き十薬咲いてをり
木々の風色濃くなりて六月に
初夏に落つただ雨垂れを見てゐたり
昼顔や競馬場へと人の波
梅雨雲は流れ青空の見えかくれ
草刈り機うしろ一面平らなり
浮草や水の動かぬところなり
遠目にも西瓜を一つ提げてをり
夕立の一歩も出れぬしぶきなり
夏服や開演はまだ明るくて
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雫の街／中山堯子 |
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腕白の頬に春泥白くあり
大鯉の重きが動く花いかだ
三鬼忌の牙を隠さぬ欠伸かな
竹落葉なにか隠してゐる鴉
夕焼に吸ひ込まれたる小鳥かな
柿の花胎児は指をしゃぶりゐて
調弦の音高まり来る緑雨
泥の手の■いでくれたるとまとかな ［■＝手偏に宛］
盛り塩をたつぷりと置く夏暖簾
雷雨去り雫の街となりにけり
行き来するまつさらな足袋夏料理
背に光集めて蜥蜴一刹那
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蜥蜴／橋田ちせ |
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梅一輪遅速を言ひて通りけり
桃咲くやひっそりかんの昼日中
トリアージタグに惑ひや春嵐
ムスカリの色を奪ひて春往きぬ
絶頂を五月雨雲の速きかな
ほとばしる水路の先や花菖蒲
総立ちて匂ひ飛ばしをり栗の花
柏葉のこれもあじさい花名札
数独解く遊びと知れど明易し
仙人掌咲き誰彼なしに見せてをり
筒鳥やぶなの森奥行く程に
再生の瑠璃色映える蜥蜴かな
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夏の時間／平田一夫 |
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磯馴木に届かず卯浪崩れけり
うみなりは遠し夏野の風の色
道祖神浮かべて植田五六枚
町並みの裏なる谷地の植田かな
あたりなき夜釣りや魚の跳びし音
雲の峰褌の臀の熱さかな
五円玉五枚の汗や宵祭
父の背や祭囃子の鉦の音
古道なる杉の梢の青嵐
滝ひとつ暮れ残りけり那智の山
黒百合や八方池の細き雨
ゆふかげのたひらの日光黄菅かな
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夏めく／本間満美 |
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万緑の光にまみれ露天風呂
母の忌の薫風にのる僧のこえ
しみ残す団扇も母の形見なり
夏めくや旅のプランを急（せ）かさるる
雨まつや紫陽花のいろ淡きまま
雨激しあじさいの毬うつみおり
夏帽子掛ければ夕日落ちており
戸隠の史跡かたらう夏帽子
少年の自転車みがく梅雨晴間
里がえりみやげどっかり夏野菜
雲の峰まっ只中に槍ヶ岳
風死して安曇野一日炎暑かな
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還暦／やまべゆりえ |
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小さき田の畦太々と塗られけり
天井へあづけしままの風船に
八重桜べたつく風を言ひ合へり
けしばうず揺る分別を囃すべく
初鰹刃物使ひの引き加減
還暦の我と憲法記念日と
影うごき二手にゆけり揚羽蝶
順番に夕焼け頒つ棚田かな
青蘆の光を統べるうねり哉
立札に転居先あり花ざくろ
凌霄花手荷物一つ増しにけり
くさぐさのもの顕なり旱川
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顔／吉野裕之 |
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挿木して父のことばを待つてゐる
三月の影を鯨と思ひけり
春の荷の皿一枚が割れてをり
東京・赤坂「齋成堂」 崔鴻銓先生
先生の強き腕も花の頃
人間に目鼻あること夏兆す
博士ふたり目の前にゐる薄暑かな
軒下に父の自転車花蜜柑
崔鴻銓先生と「しる芳」にて昼食
先生と天丼を食ふ梅雨の晴れ
夏の牛そこにはゐないやうな顔
枇杷の実を数へて去りし男どち
老人に草の匂ひや夏の駅
八月の起重機音を食うてゐる
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