句集『家』は、俊三44歳の誕生日に上梓された第二句集である。
「昭和三十六年句集『鳩の頸』一巻を上梓して、はやくも十年の歳月が流れた。私の病状から判断して遺句集とも云える実に我儘な句集出版であった」と後記は書きはじめられており、そして次のように続いている。「真の俳人として自立しようとした炎はその時点火されたといってよい。年齢にして三十三歳。爾来、生が終ったと思える時点から俳句を行ずる一歩を踏み出し、一病息災の語にはほど遠い小康を得て数年を経過した。計らずも妻マス子を迎えることが出来た」。
編年体でまとめられたこの一冊の巻頭近くには、「腎痛や爪先鷹のごとく冴え」「病む冬の紋章として屋根の鳩」「髯に棲む死神もろとも春眠す」といった病と闘う厳しい作品が収められているが、途中から「葉桜や働かぬわれ一市民」「猫じやらし妻得て齢さだまりぬ」「病める身は生の側なり冬の鵙」といった作品が見られるようになり、自身への視線のあり方が多様に豊かになっていく。病が安定し、また妻を迎えたことがその大きな理由であろうが、師・石田波郷の死もまた大きな影響があったと思われる。ちなみに、「病める身は生の側なり冬の鵙」は波郷の死の際（昭和44年）に詠まれたものである。 |
